「罪を憎んで人を憎まず」という有名な言葉があります。
今日は少し意味は違いますが、サロン経営について、
「人を憎むな、仕組みを憎め」
という話をしたいと思います。
スタッフが思ったように働いてくれない。
もう少し売上を意識してほしい。
もう少しお客様のことを考えてほしい。
もう少し店全体のことを考えて動いてほしい。
オーナーをやっていると、そんなことを思う場面はあると思います。
でも最近、私はこう考えるようになりました。
それは本当に、そのスタッフの問題なのか。
もしかすると、自分が作った仕組みのほうに問題があるんじゃないか。
まずそこを疑ったほうがいいんじゃないかと思うんです。
オーナーとスタッフでは見えている世界が違う
そもそも、オーナーとスタッフでは見えている世界が違います。
オーナーは店全体を見ています。
売上があって、そこから人件費、家賃、広告費、システム代、その他いろいろな経費を払う。
そして、みんなに頑張ってもらった最後に、ようやく利益が少し残る。
そういう世界を見ています。
一方で、セラピストから見えている世界は違います。
自分が何日働いた。
何人施術した。
いくら売り上げた。
そして、いくら給料をもらった。
基本的にはそういう世界です。
どちらが正しいとか間違っているという話ではありません。
立場が違うのだから、見えている景色が違うのは当たり前なんです。
だから、普通のスタッフに対して、
「店全体の利益を考えてほしい」
「もっと経営者目線を持ってほしい」
と言っても、なかなか伝わりません。
もちろん、マネージャークラスになれば、ある程度そういう視点も必要でしょう。
それでもオーナーとまったく同じ景色を見るのは難しい。
まして、そうした役職に就いていないスタッフにオーナーと同じ視点を求めても、そもそも視線が合っていないんです。
「なぜ働いてくれないのか」ではなく「なぜそう動くのか」
そこで、
「なんでこの人はもっと働いてくれないんだろう」
と考えてしまう。
でも、そこで人の問題にしてしまう前に、一度考えたほうがいい。
「この人がそういう行動を取るような仕組みになっていないか?」
ということです。
人間は基本的に合理的な生き物だと思っています。
口に出すか出さないかの違いはありますが、できれば楽に働きたいし、できればたくさん稼ぎたい。
それは別に悪いことではありません。
私だってそうです。
オーナーだって、できれば少ない労力で利益を増やしたい。
スタッフだけに、
「自分の損得を考えず、店のために頑張ってください」
と言ったところで、それは無理があります。
だから必要なのは精神論ではありません。
本人にとって合理的な行動と、店にとって望ましい行動を一致させること。
それが仕組みを作るということだと思います。
事業とは巨大なプログラムである
「仕組み」という言葉は便利なので、少し曖昧でもあります。
でも、サロン経営を考えてみると、ほとんどすべてが仕組みです。
価格もそうです。
マーケティングもそうです。
勤務体制、休日、給与、歩合、指名料、評価制度、昇格や降格。
一つひとつの細かいパーツが組み合わさって、一つの事業ができています。
私は最近、これはプログラミングに近いと思っています。
事業という一つの大きなプログラムを書いている。
この条件ならこうなる。
この数字になったらこうなる。
この行動をするとこういう結果が返ってくる。
そういうコードを大量に組み合わせて、一つの会社や店舗が動いている。
だとしたら、期待していた動きをしないときに、
「スタッフが悪い」
と考える前に、
「自分が書いたプログラムがおかしいんじゃないか」
と考えるべきなんですよね。
頑張った先に何があるのかを明確にする
特に大事だと思うのが、曖昧さをなくすことです。
「頑張ったら評価します」
と言われても、何をどこまで頑張ればいいのか分かりません。
「売上を上げてください」
と言われても、売上を上げた結果、自分に何が返ってくるのか分からなければ、なかなかやる気にはつながらない。
だったら、
ここまで売上が上がったら歩合がこうなる。
指名がここまで増えたらこうなる。
この条件を満たしたら次の等級になる。
というところまで、できるだけ明確にする。
「これをすれば、こうなる」
という因果関係が本人から見えるようにするわけです。
オーナーは少し違います。
新しい仕組みを作ったところで、うまくいく保証なんてありません。
価格を変えてもうまくいくか分からない。
広告を出してもうまくいくか分からない。
新しい制度を作ってもうまくいくか分からない。
それでもリスクを取ってやるのがオーナーの仕事です。
でも、スタッフにまで同じ不確実性を背負わせる必要はありません。
少なくとも、
「この条件を満たしたら、あなたにはこれだけ返します」
という部分については、できるだけ明確にしておいたほうがいいと思います。
「頑張れ」よりも、公平な制度を作る
もちろん、日々の声掛けや気遣いも大切です。
「ありがとう」
「頑張っているね」
そういうコミュニケーションは必要です。
ただ、それ以前にもっと大切なものがあると思っています。
それが、
公平で、正確で、できるだけ数字で判断できる制度です。
誰かに気に入られているから評価される。
オーナーとの距離が近いから評価される。
なんとなく頑張っているように見えるから評価される。
そういう制度では長く続きません。
誰が見ても、
「この条件ならこうなる」
と分かる。
そして実際にその条件を満たせば、本当にそうなる。
そこまで仕組みを作ることができれば、極端な話、日々の運営にオーナーなんてそれほど必要なくなると思っています。
仕組みが判断してくれるからです。
もちろん、その上に人間としての気遣いやコミュニケーションがある。
でも、順番としては、まず公平な仕組みがある。
その上に人間的な部分を乗せていく。
私はそのほうがうまくいくと思っています。
オーナーだけが得するプログラムでは続かない
ただし、一つ注意しなければならないことがあります。
自分にだけ都合のいいプログラムを書いても意味がありません。
オーナーだけが儲かる仕組みを作って、
「さあ、この通りに動いてください」
と言ったって、そんなものは長続きしません。
以前、「損して得取れ」という話を書きました。
私はやはり、順番が大切だと思っています。
まず、お客様が得をする。
次に、そこで働くスタッフが得をする。
その結果として店が繁盛して、最後にオーナーにも利益が残る。
もちろん、誰か一人だけが得をしすぎても続きません。
だから、ずっと調整が必要です。
価格を調整する。
給与を調整する。
歩合を調整する。
勤務体制を調整する。
評価制度を調整する。
プログラムを書いて終わりではなく、実際に動かしてみて、うまくいかなければまた修正する。
経営とは、このチューニングの繰り返しなのかもしれません。
人を変えようとする前に、仕組みを変える
スタッフが思ったように動いてくれないとき、
「あの人はやる気がない」
と考えるのは簡単です。
でも、その前に自分に問いかけたいと思っています。
頑張った人がきちんと報われる仕組みになっているか。
何をすれば報われるのか、本人に伝わっているか。
評価基準は公平か。
できるだけ数字で判断できるようになっているか。
そして、お客様、スタッフ、店の三者にメリットがある仕組みになっているか。
もし、どこかがおかしければ、まずそこを直す。
それでもダメなら、またチューニングする。
人を変えようとするより、仕組みを変える。
うまくいかないことがあったとき、その責任をスタッフに求める前に、
「自分が作った仕組みに問題はなかったか」
と考える。
最終的には、店で起こることの責任はオーナーにある。
だからこそ、
セラピストを憎まず、仕組みを憎め。
そして、仕組みを作った自分自身をまず疑ってみる。
それがオーナーの仕事なんじゃないかと、最近はそんなことを考えています。
